
エッジコンピューティングとは、クラウドサービスの遅延を低下させる各種テクノロジーを指します。 エンドユーザーとサーバーとの地理的な距離は遅延に最も大きく影響する要素です。 どのエッジコンピューティングテクノロジーもコンピューティングリソースとユーザーとの距離を縮めることでこの問題を解消していますが、特定のエッジコンピューティングでは手法を変えてこれを実現しています。 各種エッジコンピューティングテクノロジー間の違い、メリットと適用例、および今後の可能性については、以下を読み進めて下さい。
エッジコンピューティングの目標
エッジコンピューティングの目標は、低遅延のサービスを提供することです。 比較的小規模なデータセンター、移動通信基地局、組み込みサーバーなど、ユーザーに近い場所にコンピューティングリソースを配置する分散型のアプローチを採用しています。
エッジコンピューティングは、大規模な集中型データセンターにサーバーが配置された従来型のクラウドコンピューティングの集中型モデルに追加できるものです。 クラウドが生のコンピューティングパフォーマンスを最大化することが焦点であるのに対し、エッジの場合は遅延を最小化することが重視されます。

エッジコンピューティングの仕組み
エッジコンピューティングは、エンドユーザーに近い場所にサーバーを戦略的に配置することで効果を発揮します。 遅延に影響する要素の中で最も制御しやすいのはクライアントとサーバー間の距離ですので、遅延を大幅に低下させるにはサーバーを地理的にクライアントに近い場所に配置するしかありません。

エッジコンピューティングの具体的な導入方法はユースケースとレベルに応じて異なります。 このようなエッジコンピューティングの仕組みの違いについてもう少し掘り下げてみましょう。
エッジコンピューティングのレベル
エッジコンピューティングのさまざまなレベル、その具体的な状況、位置、実現可能な遅延範囲を見てみましょう。

従来型のクラウド
まずは基準を定めるため、従来型のクラウドモデルを確認する必要があります。 このレベルはデータとコンピューティングを激しく消費するワークロード、バックアップ、およびディザスタリカバリーに適しています。 従来型のクラウドモデルは物理および仮想の堅牢なハードウェアリソースを分単位で、または秒単位でもレンタル可能であるため、高負荷のワークロードに対応しており、ほとんどの組織が単独では管理できない冗長ストレージソリューションを提供します。
クラウドプロバイダーは大規模なデータセンターにコンピューティングリソースを格納しています。 遅延はデータセンターに近いユーザーでは数十ミリ秒に低下する可能性がありますが、世界の反対側にいるユーザーでは1秒を超えるかもしれません。
メトロエッジ
メトロエッジは一般的にコンテンツデリバリー、地域別コンプライアンス、スマートシティアプリケーションに役立つものです。 この場合はコンピューティングリソースがユーザーと同じ大都市圏に配置されており、実現される遅延の範囲は1桁から2桁前半のミリ秒となります。
メトロエッジは往々にして遅延の低下を実現するだけでなく、地域のデータ主権法に確実に準拠するのにも役立ちます。 たとえば、南米を拠点とするクラウドサービスはヨーロッパでは法的に要求されているGDPR保護を提供していない可能性がありますが、パリを拠点とするメトロエッジプロバイダーは地域の顧客に対するGDPRコンプライアンスと大幅な低遅延化のどちらも実現できます。
ファーエッジ
ファーエッジは2桁ミリ秒の遅延でも大きすぎるとされるIoT、自動運転車、および電気通信に必要不可欠なものです。 このレベルではコンピューティングリソースを移動通信基地局などのネットワークのエッジに展開することで、ミリ秒未満から1桁ミリ秒の遅延を実現しています。
オンプレミスエッジ
遅延をミリ秒範囲に抑える必要のある製造、医療、および小売などの分野ではオンプレミスエッジが最適です。 たとえば、毎秒数百あるいは数千もの項目を検査できるハイスピードカメラなら、製造現場の生産速度を下げることなく高い品質を保証できます。
その名前が示すように、このレベルのコンピューティングリソースはユーザーからほんの数メートルの場所にオンプレミスで配置されるため、常にミリ秒範囲の遅延を実現できます。
エッジコンピューティングの業界ユースケース
状況に応じて異なるエッジコンピューティングの仕組みを詳しく理解するため、いくつかのユースケースを見てみましょう。 エッジコンピューティングはすでにさまざまな業種でプロセスの改善に活用されています。
小売
スマートシェルフは収納されている商品と在庫数量を報告します。 これにより、年に数回発生する手動での棚卸作業に時間をかける代わりに、店舗の在庫に関するインサイトをリアルタイムに取得できる継続的な自動プロセスに移行することができます。
エッジコンピューティングはデータをスマートシェルフのような収集場所でリアルタイムに処理することを可能にすることで、この移行を促進します。その結果、遅延なく在庫レベルで即座に更新できるようになります。 小売業者にとっては在庫管理を最適化し、品切れの状態を減らし、常に必要な商品を確保することで顧客満足度を高められるというメリットがあります。
生成AI
生成AIの分野では、低遅延エッジコンピューティングがAIモデルの応答速度向上と入力データのプライバシー保護に役立っています。 たとえば、エッジを利用したチャットボットはすべての入力データを遠隔地のデータセンターに送信する必要がないため、迅速に音声を認識して応答を生成できます。
スマートシティ
自治体は多数の業務を分散して行っています。 たとえば、交通管理と廃棄物管理にはその都市に点在する複数の場所が関係しています。
エッジコンピューティングにより、信号機などの装置は現場のデータを処理して自身のタイミングを変更し、交通の流れを最適化できるようになります。つまり、中央のサーバーにデータを送り返してデータを処理しなくても、信号機のセンサーが交通パターンの変化にリアルタイムに反応してスムーズな交通の流れを維持できるようになるのです。 廃棄物管理でも同様に、エッジコンピューティングではセンサーを搭載したごみ箱を使用して現在の投入量を取得できます。 その結果、自治体は実需に基づいて廃棄物の収集ルートとスケジュールを調整し、効率アップと不要コストの削減を実現できます。
自動運転
自動運転車は大変な注目を集めていますが、最新車両における唯一のITに関連する応用例ではありません。 車両自体が「プレミス」となるオンプレミスエッジコンピューティングにより、車両がメンテナンスを予測し、発生しうる問題を深刻化する前に発見できるようになります。常時ネットワークに接続する必要はありません。
医療
病院での皮膚がんの検出とリアルタイムの患者モニタリング用の画像分析といった医療分野でのアプリケーションでは、エッジコンピューティングが実現するプライバシーによって多大なメリットを享受し、患者データのセキュリティを高めることができます。 エッジコンピューティングでは、デバイス自体がその場でデータを処理することでプライバシーを確保します。 これにより、機密データが転送中にサイバー脅威にさらされる可能性が大幅に低下します。 エッジコンピューティングは地域のデータプライバシー規則に準拠するのにも役立ちます。データをその生成場所の地理的境界内に留められるためです。 これは患者データの機密性が高く、米国のHIPAAのような厳格なプライバシー法に準拠しなければならない医療分野では特に重要です。
金融
高頻度トレードでは遅延の低さが重要です。 たった数ミリ秒早く注文を出すことで、利益になるか損失になるかが変わる可能性があります。 エッジコンピューティングはコンピューティングリソースと金融取引所の距離を縮めることで、遅延を低下させます。
金融分野においては、ATMでの生体認証も興味深いユースケースです。このケースではエッジを利用した顔認証によって顧客を迅速に識別し、詐欺師による盗難クレジットカードの利用を阻止しています。
エッジコンピューティングのメリット
エッジコンピューティングのメリットは、低遅延、帯域幅の節約、およびプライバシーの強化です。
低遅延
エッジコンピューティングの一番のメリットは、遅延が大幅に低下することです。 1桁ミリ秒あるいはマイクロ秒の遅延を実現すると、従来型のクラウドの導入では不可能なユースケースも可能になります。 たとえば、自動運転車は交差点のたびに何秒も待てませんし、高頻度トレード市場では次の注文を待つことはありません。 素早く実行されるか、まったく実行されないかのどちらかなのです!
帯域幅の節約
エッジコンピューティングでは、データを従来型のクラウド拠点にある基幹サーバーに送信する前にフィルタリングしたり、搭載ハードウェアのスペックが低い、またはインターネット接続速度が遅いクライアントに送信する前にメディアをオンデマンドで圧縮したりすることで、帯域幅を節約します。 このように早い段階で処理をすることでインターネット経由で送信されるデータの量が削減されるため、下位ネットワークの負荷が緩和され、関連コストが低下する可能性があります。
プライバシーの強化
オンプレミスエッジのレベルではプライバシーに最適化されたエッジコンピューティングを活用し、上記の医療分野での例で見たようなパブリックネットワークへの露出を減らすことができます。 ただし、プライバシーはエッジコンピューティングのインストール環境が必ずしも備えているとは限りません。 健康記録や財務情報などのプライベートデータを取り扱う際など、地域のデータ保護法に従って機密データを保護するには明確な予防措置が必要です。
エッジコンピューティングが重要な理由
増え続けるコネクテッドデバイス、グローバルに接続された環境内の従来の集中型サーバーの制限、最新の遅延とプライバシーの要件に関連する多くの最新ニーズに応えます。
デバイス数の増加
インターネットに接続されたデバイスの数は、集中型サーバーのコンピューティング能力を超える速度で増加しています。 この動向に対応するため、クラウドコンピューティングではスケーリング手法を垂直(サーバーを高速化してデータ処理量を増やす)から水平(ワークロードを複数のサーバーに分散する)に変えていました。 エッジコンピューティングではこのようなワークロードの分散を継続的に実行することで、デバイスの数が指数関数的に増加しているにもかかわらず、低遅延のパフォーマンスを実現しています。
従来の集中型サーバーの制限
データ処理に関して言えば、従来のような高性能な集中型サーバーを使用すると重大な問題が生じる可能性があります。 このような強力なサーバーはインストールにも保守にも費用がかかるだけでなく、必要なすべての拠点に展開するのも物流的に複雑です。 エッジコンピューティングではデータ処理が分散化されるため、各サーバーは局地的なデータセットを管理するだけで済みますので、より小型で負担の少ない安価なサーバーを使用できるようになります。 そのため、かなり広い地理的範囲にサーバーを配置することが可能となっています。 エッジコンピューティングはこのような方法でコストのかかるサーバーの展開と保守の問題を解決し、データ処理の効率とアクセス性を高めています。
従来型のクラウドコンピューティングは消えておらず、高性能なサーバーは依然として多くのユースケースで必要不可欠なものですが、エッジコンピューティングなら負担を軽減し、他のタスクにリソースを開放できます。
今日の遅延とプライバシーの要件
最後になりますが、最先端テクノロジーには単に大規模なデータセンターのコンピューティング能力を強化するだけでは満たせない新しい遅延とプライバシーの要件があります。 自動運転車には20ミリ秒未満の応答時間が要求されますし、病院はインターネット経由で送信することに危険のある患者データのプライバシーを確保しなければなりません。 エッジコンピューティングはこのようなニーズを満たせますが、従来型のクラウドモデルは単純にこれを常に満たせるとは限りません。
エッジコンピューティングの未来
エッジコンピューティングは複数の業界にタスク自動化の新たな可能性をもたらします。 エッジコンピューティングは今後10年間で $1,570億超の価値にまで成長すると見込まれ、大企業セグメントでは 80% の伸びが期待されています。 多くの新しいエッジコンピューティングのアプリケーションや企業がワークロードをエッジに移行し、そのメリットを享受することが期待されます。
デバイスのサイズと効率が改良されることで、今日ではあり得ない新しいワークロードをエッジコンピューティングで処理できるようになると同時に、既存のワークロードを異なるエッジコンピューティングレベル間で移動できるようになり、応答時間をさらに短縮できるようになるでしょう。
まとめ
エッジコンピューティングは従来のクラウドコンピューティングの延長線上にあるものです。 コンピューティングリソースとそれを必要としているユーザーとの距離を縮めることで低遅延を実現します。 自動運転車、リアルタイム交通管理、あるいは高頻度トレードのような多くの最新ソリューションはエッジコンピューティングを必要としており、従来のクラウドだけでは実現できないと思われます。 しかし、エッジコンピューティングはクラウドコンピューティングが進化した後継テクノロジーではありません。 エッジコンピューティングは遅延とプライバシーの面で効果的ですが、生のコンピューティングパフォーマンスを必要とするワークロードは従来のクラウドでも依然として適切に扱われます。 エッジコンピューティングはクラウドコンピューティングの展開における遅延の差を埋め、集中型サーバーの負荷を軽減しながら分散方式で適切に処理させるために戦略的に追加できるものです。
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